アスンシオンカワムラ新聞

パラグアイで整体治療に携わっています。日々思ったことを綴ります。

大人の流儀(某伊集院をパクった訳ではありません)

 近所のジムでトレーニングしていたら、日本人ぽい顔の若者がいたので話しかけたのが、そもそものきっかけである。徹(とおる)君は小柄だが全身鋼のような筋肉をしていた。14,5年前のことだ。

 聞くと日本から単身南米にやって来て、アルゼンチンやボリビアのサッカーチームに在籍し、今は(その当時は)パラグアイ一部リーグ「ヘネラル・カバジェロ」に所属しているとのこと。そんなキャリアの人を身近に見たことがなかったので、驚いたものである。

 お互い意気投合して酒を飲むようになった。

 気の張らない、男同士の話題で盛り上がったが、ある時彼が「自分をアピールするやり方は日本でも外国でも同じですよ。ただ文化や風俗習慣が違うので、そこを勘違いしてリスペクトなく振る舞うことが海外流と思っている日本人が多いんですよ」と言った。

 それを聞き、この境地は異国で様々な試練を味わい、常に自分を主張しなければならない厳しい環境下にいる男が、地獄を見て辿り着いたもう一段上のレベルなのだろうと思った。

 徹君の見解に共鳴したので、ここは当方が酒代を持った。

 蛇足ながらそのせいかTwitter で「海外では遠慮は禁物。どんどん自分を主張すべき」という類いのツイートを見ても、うわべだけの軽い意見に感じられて、さほど心に響かないのだ。それはさておき。


 隆の里という力士がいた。

 ある日京都府立体育館へ行ったら「昨日隆の里が来てたぞ」とトレーニング仲間に言われた。いつだったか忘れたが、京都で巡業があったのだ。学生時代のことだ。

 レッグプレスマシンという寝転がって脚の屈伸をする器具があるのだが、重りを全部くっ付けても軽すぎるのか、更に付け人をその上に座らせてやっていたらしい。
 その光景を想像して笑ってしまったが、仲間曰く「あんなマシンの使い方初めて見たわ」私は昔から隆の里ファンを自認していたので、是非この目で見たかったものである。
 
 長い間地味な中堅どころの関取というイメージがあったが、持病の糖尿病を克服して遂に横綱にまで昇進した男が、その過程で「自分を殺す和など一切不要」と、宴会に呼ばれても酒を一滴も飲まなかったエピソードや、このなりふり構わぬトレーニングが何故か結び付き、今でも頭の片隅に残っており、正しく意地っ張りの権化のような人間だったのだろうと想像する。

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先日一発打ちました

 自分と異なった価値観を持つ社会では、上記徹君のような柔軟な順応性という適応力と、横綱隆の里のように頑固で強靭な精神の二つを持ち合わせねば上手くいかないと思う。
 どちらか一つだけでは物事が絡まって前進しないのだ。これは長年異国に住んで得た持論である。

 それともう一つ、意外に思われるかもしれないが、南米においても謙虚さは美徳である。決して自分を過小評価する必要はないが、その反対の口先だけの嘘つき野郎は馬鹿にされるのだ。

 あのネイマールとバティストゥータを比べてみれば何となく分かるのでは。(意味の分からない方は飛ばして下さい)

 

 了