アスンシオンカワムラ新聞

パラグアイで整体治療に携わっています。日々思ったことを綴ります。

賢者は正論を語らず(親父闘病頑張れよ)

六月から七月にかけて日本へ行っていた。

その中でも息子とレンタカーで各地を訪れたのは、良い思い出になった。普段ディーゼル車に乗っているので、一年のうち何回かアスンシオンから南部のエンカルナシオンまで、往復700キロほどを走らせることがある。それは長距離を走るとディーゼルエンジンの調子が良くなるからだ。そのせいもあり運転すること自体は長距離であろうとさほど苦にならない。では日本でも車を使って移動すればいいかと思いレンタカーを借りたのだが、正解だった。

羽田空港から山口県防府まで900キロ弱だから、アスンシオン~エンカルナシオン~シウダーデルエステ~アスンシオン位の距離か。日本国内での運転は30年振りなので、事前に一週間ほど北海道で予行演習をした。これで勘を取り戻す訳だ。流石に羽田から首都高に乗り横浜を経由して東名高速に入るまでは緊張したが、道中無事◎。

外国人御用達のJR passも便利と言えば便利だが、やはり車の持つ機動性には敵わないと思う。出不精の老父母をあちこち連れていけたり、京都で夜中無性に天一ラーメンが食べたくなり(笑)、北白川本店まで急行出来たのも車があったからこそ可能だったのだ。


この旅行でエネルギーを使い果たしたのか、パラグアイに帰ってからも気力が今一つ回復しなかったそんなある日、一人のご婦人が来院した。
いつも女中さんがする掃除を、その日に限って自分でモップかけしたら腰が痛くなったとか。腰椎5番がズレているので、それを治してほしいとやたらひつこい。
昔はこういう人には「腰痛イコール腰椎○番のズレという考えは科学的根拠に欠けますよ。普段やり慣れていない運動をしたので筋肉痛になっただけだと思いますが」とか言っていたものだ(笑)。

決して当方喧嘩を売るつもりはなく、思ったことを口にしただけなのだが、相手にすると自分の意見を踏みにじられたようで面白くない。すると良好なラポールを築くのは難しく、お互いわだかまりを残したまま治療も不燃焼に終わるという展開になる可能性大。

でもあなたの回りにも、いるでしょう、こういった大村益次郎タイプの人が (注)。またそういう人に限って一本気だったりするので余計に厄介だ。昔の自分がそうだった。

元来小生には頑固というかへそまがりのところがあって、自分が正論と思うことを黙っていられない信念みたいなものがあり、たとえこれを主張すると自分が圧倒的に不利になると分かっていても、敢えて口に出してしまう。
その都度痛い目に遭ってきたのは、日本でもパラグアイでも変わらないが、外国人がそれを異国でもやらかすと、その土地独自の気質や会話の細かいニュアンスの違いが加わって、ブーメラン効果は更に大きくなる。いつまでも益次郎流を貫き他人と衝突ばかりしているのはしんどいものだ。


老婆心ながらあまりにも相手の言い分が支離滅裂でなければ、いかに自分の方が正論と思ってもそれを途中で遮ったり、頭から否定するのはやめた方がいい。己の自尊心に拘りすぎると一文の得にもならないので。これは数十年もがき苦しんで勝ち得た自分なりの結論だ。

後日あの時のご婦人から礼状を受け取った。「5番のズレを治していただきすっかり痛みは取れました。ムーチャスグラシアス!マエストロ!」と。今回治療が上手くいった要因の一つは、患者の言い分を頭から否定しなかったことにあると思う。腰椎5番の調整まで手が回らなかったが、まあいいや。
そもそも患者にとっても治療者にとっても、腰椎5番がずれていようがなかろうが、痛みが取れればそれでよいではないか。「白い猫でも黒い猫でも鼠を捕るのが良い猫だ」(鄧小平)



(注)「今日はお暑うございますね」と隣人に挨拶されて「夏は暑いのが当たり前です」と答える幕末の長州大村益次郎、言葉の裏や行間を全く読めない若しくは読もうとしないこのエピソードは有名。