私の治療のモットーは「症状に最も適した療法を用いて患者の痛みを取り除くこと」なので、問診は重要視している。その目的は「痛みの原因を把握し、その症状が整体治療の範囲内かどうかを見極めること」である。
「いつから痛みますか」「どのような体勢で悪化しますか」等尋ねて核心に触れていくのだが、中には「30年前から激痛に悩まされ一日たりとも眠れない !!」と豪語するヒポコンドリーな人もいて「そのわりにはあんたしぶとく生きてまんな !!」と思わず言いそうになる(笑)。
ところで駆け出しの頃は治療成果を上げなければこの業界ではやっていけないのだ、とばかり己にプレッシャーをかけ過ぎて精神的にしんどかったものだ。
多分そこには俺はGod hand を身に付けるのだという驕った考えもあったのだろう。負ければ切腹する覚悟で試合に挑んだ木村政彦のように、常軌を少し逸していたと言うかまあ余裕が無かったのだ(本当はそこまで大袈裟ではありませんが)。
しかしある時「出来ることは出来る、出来ないことは出来ないで良いのだ」と悟った。何がきっかけかは覚えていないが、色々経験を積んだり悩んだりしたからこそ気づいた〈内からの声〉を聞いたのかも知れない。
そもそも自分の健康を犠牲にしてまでもする程価値がある仕事などない筈だ。
それ以降誠意を込めて治療するのは変わらないが、その結果に一喜一憂しなくなった。そこまで自分が心配する謂れはないと開き直ったのである。
患者の痛みが改善すれば御の字だが、仮に良くならなくても症状が悪化しない限りまあいいかと思うようにした。有り難いことにそれで腕が極端に落ちてしまった····ということもなく、毎晩普通にぐっすり眠れる(笑)。
ちなみに偉そうな態度の板前や医者が昔から苦手である。何故かと言うと彼らの傲慢さが醸し出す居心地悪い場の空気に耐えられないからだが、それに加えてもしかしたらそこに鏡に映った以前の自分を見ているからかも知れないなと思った。
どうやら人は余りにも完璧さを追い求めて己に厳しくなり過ぎると、周りが見えなくなり謙虚さを失った「裸の王様」となることがあるようだ。
読者諸君、どうか他山の石としてください。