アスンシオンカワムラ新聞

パラグアイで整体治療に携わっています。日々思ったことを綴ります。

情けは人の為ならず

 『情けは人の為ならず』
 このことわざを最近は「人に情けをかけて助けることはその人のためにならない」と解釈する人が多いが、私が信条としているのは、本来の意味の方である。

 10年程前になるが、税金を納めに市役所へ行った。いざ支払う段になって小銭の持ち合わせがなかったので、仕方なく端数分(ほんの5~60円程度)を大きな札で払おうと財布からもう一枚100,000ガラニー札を取り出した。
 すると窓口の男が「細かいのは持っていないのか?お釣りはないよ」その言い方にカチンときたので「それでは端数分は負けてもらおうか(笑)」とみみっちい返事を返した。
 それを見て横の列で並んでいた若い女性が、何の気負いもなくスッと小銭を出してくれたのだ。二人の情けない遣り取りを聞くともなく聞いていたのだろうが、何ともスマートではないか。今でもはっきり覚えている。
 果たして彼女のような振る舞いが(それも赤の他人に対して)二十代の私に出来ただろうか。見事に一本取られました。

 それともう一つ忘れられないエピソードがある。
 ブエノスアイレスの空港でアスンシオン行きの搭乗を待っていた時、ふとコーヒーでも飲もうかと思いポケットに手を入れたら現地通貨を持っていないことに気付いた。
 そこでカフェの店員にクレジットカードは使えるか尋ねると「アルゼンチンペソの現金払いだけ」と言われた(泣)。昔は往々にしてそういう店もあったのだ。すると横にいたおっさんが「コーヒーが飲みたいのか」と声をかけてきた。その言い方が全く自然体だったので「よく分かるね(笑)」「奢るよ。遠慮するな」という展開になったのだ。
 話せばこの人、我々夫婦が結婚した翌日アスンシオンのセントロを散歩して何気なく入った、レストランのオーナーであった。

 旅から戻って早速彼のレストランへもう一度行ったら、件の恩人は帳場に座っていた。
 「先日はコーヒーありがとう。今日は家族全員連れて来たよ」
 品の良い客層が醸し出す心地好い雰囲気の中で名物料理ミラネサデスルビ(川魚のフライ)を堪能したものだ。 コーヒーおっさんの計らいでデザートを特別サービスしてもらった。

 店の名前は「Restaurante Bar San Roque 」パラグアイでも五指に入る老舗レストランである。
 
 読者諸君の中には「今の世の中『人を見たら泥棒と思え』精神でなければやっていけないよ。ましてや南米なんて」と思われる人もいるだろうが、幸いにも私は上記二つのような事例を幾度も経験してきた。
 そして「情けは人の為ならず」は本当だなと思うようになった。

 さあ2020年上半期を何とか無事乗り越えた。世界中で厳しい状況はまだ当分続くだろうが、己の信条を肩肘張らずにあの小銭のセニョリータやコーヒーおっさんのように、貫いていけたらと思う今日この頃である。