アスンシオンカワムラ新聞

パラグアイで整体治療に携わっています。日々思ったことを綴ります。

ラブレターを代筆したこと

 アスンシオンは連日の雨降りで異常に蒸し暑く、不快な天気が続いている。これがからっとした気候であれば、暑くても案外耐えられるのだが、湿度が85%以上あると呼吸するのも億劫になる程だ(常にマスクを使っているのも有るだろうけど)。

 地球温暖化の観点からすれば、エコ生活を心掛けてエアコン使用は控えめにすべきだという理屈は正論ごもっともだが、こう糞暑いとそうも言っておられず、一日中クーラーをフルにかけまくっている。
 「背に腹は変えられない」ので地球環境問題より"今ここにある"自分の健康維持を優先してしまうのだ。


 30数年前初めてパラグアイに来た頃は、下宿にクーラーなどなく、扇風機をいくらつけっぱなしにしても、異様に暑く眠れない夏の夜が幾晩も続いた。
 とうとう我慢できず夜中にバケツの水を部屋中にぶちまけたことがある。レンガ造りの部屋なので暑さが少しは和らぐかと思ったら、何のことはない、却って焼け石に水で蒸し暑さがぶり返した(泣)。
 翌日大家のおばさんに大層怒られたものだ。
 最終的に庭にハンモックを吊って寝たり、屋根の上で寝たりしたのが、案外心地よかった覚えがある。


 それ故涼を取るために冷房の効いたカフェテリア(喫茶店)や映画館にはしばしば通った。

 ある日とあるカフェにて休んでいると、ウエイトレスが近づいてきて「あなた、日本人でしょう。 私の彼氏も日本人なので、ラブレターを日本語で書いてくれない ? 」と言われたことがあった。快く引き受けた。

 一週間後約束の手紙を彼女に渡すと、コーヒーとエンパナーダ(南米風ミートパイ)をサービスしてもらった。そういう交換条件だったのだ(笑)。

 ちょっと気に掛かったのは、件の同胞がこの日本語の恋文を受けとったら、どこのふざけた奴がこれを書いたのかと怒るのではないかと思ったことだ。
 と言うのは悪戯心が起きて、かなり際どい18禁セリフをところどころに散りばめてしまったのである。その後彼らがどうなったかは無論知らない。今でも反省している。

 故に若者、老婆心ながらラブレターを書くときは自分で書こう。下手でもいいから。

 
 さて先日ショッピングセンター内のカフェテリアでコーヒーを飲んでいたら、ウエイトレスに「日本人作家で誰が一番好きですか」と聞かれたので、「開高健」と答えた。セニョリータは「村上春樹」「三島由紀夫」を読んだとのこと。
 彼女がスカーレット・ヨハンスンに似た美人であったことは別に関係ないが、異国の地で日本文学について訊ねられるとは嬉しいものだ。その時昔のラブレター代筆事件をちらっと思い出したのである。

 あの当時コミュニケーションの手段と言えば手紙と固定電話だけで、スマホもWhatsApp もE-mail も無かったが、何とでもなった。今よりも足が地について生きていた気もする。

 この思いをノスタルジー(懐古趣味)と言うのだろうが、自分がしみじみとそれに浸るのは、最近Netflixで年寄りが主人公の映画をよく観るので、その影響があるのかも知れない。